定員300名の会場は、おかげさまで入場お申し込みの段階ですでに満席。農業関係者や企業経営者の姿も多く見受けられました。
エリザベット・サトゥリスさんが当日ご持参になった『HOPE』というタイトルのオリジナルDVD映像が、会場正面のスクリーンに映っています。人類、宇宙、文明、生命、未来などをテーマにした美しい映像詩とでも呼べる内容で、会場にいた私たちにとってもまったく予想していなかった、素晴らしい贈り物でした。


エリザベット・サトゥリスさんは日本語のスライドを90枚以上も準備しておられ、それらを順次示しながらの講演になりました。 エリザベット・サトゥリスさんの講演の主旨を、きわめて簡単にまとめると
1. 生命はお互いの競争関係からやがて協力の関係へといたる
2. 人類にとっては地球温暖化がその協力関係を構築するきっかけになりうる
3. これらのことは、バクテリアや人体などの自然が教えてくれている
ということになります。
そして、いま実際に世界で起こっている「協力」へ向けての人類の進歩のさまざまな具体例が紹介されました。


★1「<パイオニア・エコシステム>と呼ばれる、この“タイプ1”の生態系では、若い種が資源を独占し、可能なかぎり領土を確保し、急速に増殖しようとしています。これらの種は非常に競争的です。成熟した種は<クライマックス・エコシステム>と呼ばれる“タイプ3”の生態系に見いだすことができます。これらの種は、資源を分かち合い、領土を共有し、他の種の存続を支えるなど、非常に協力的です。これらの種は、現代人が学ぶべき教訓、すなわち協力は競争より経済効果が高い、という事実にすでに気付いているのです。敵意を持って競い合うのをやめ、経済活動の中で成熟した協力関係を築くとき、人間は自然の重要な教訓を学んだことになります。 自然界のあらゆる種が、競争から協力へというこの成熟曲線のどこかにいます。そして自然界において、他の生物との関わることなく、単独で生きられる動物はいないのです。 地球上で大災害が生じたとき、その後にやってくるのは大規模な絶滅です。そのような例はこれまでに5回ほど生じ、その都度、地球上のほぼすべての種が絶滅しました。その後、突如として、化石の記録からわかるように、新しい種が全世界中で出現したのです。これはダーウィンが語ったように偶発的な変異がゆっくりと次々に生じたのではなく、たくさんの新たな種が突如として出現したのです。自然界では、危機は同時にチャンスでもあります。自然は万事うまくいっているときは著しく保守的ですが、そうでないときは大いに独創性を発揮します。」


★2「60億の人々を、<地球家族>として一つにまとめることは、それほど困難なことでしょうか? 人間の体は、肉眼では見えない100兆個もの極小細胞が集まってできています。これらは複雑な人体の中で、驚くべき調和を見せて機能しています。これは驚異的な事実であり、個々の細胞を詳しく調べた結果、はじめてわかったことです。 ここで、小さなシステムは大きなシステムよりも単純だと考えることには、注意が必要です。なぜなら、体内のどの細胞も大都市と同じくらい複雑だからです。したがって私たちの体は、この地球上の人間社会全体よりも、はるかに複雑なのです。皆さんの中に、宇宙旅行の映画をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。小さな光点に近づくと、銀河系全体が目の前に広がります。そして別の光点に近づくと、太陽系が見えてきます。このように、より小さな新しいレベルへと視点を移すにつれ、かつて見たことのある、複雑なものが見えてきます。この現象は、数学ではフラクタルによって構成されるものです。 体細胞の一つ一つに、何千ものミトコンドリアが含まれています。先ほど申し上げたように、これは古代バクテリア細胞の子孫で、体内銀行のようなものです。ミトコンドリアは支払い義務のないクレジットカードを発行しています。これを入手して、経済システムの中で利用します。これが細胞内の経済の仕組みです。そして限度額まで使ったら、このカードを銀行へ返します。銀行では、利息付きの元金を受け取る代わりに、新たな融資限度を認めてもらいます。つまり返済の必要はないのです。フリー・マネーです! 想像してみてください! 世界経済が借金に基づいて成り立っているのはなぜでしょう? この借金経済というのは、ごく一部の人々が富を手にするためのものです。人間には創造力があります。自明のように思えるシステムを検証し、それを変えることができます。」
★3「私たちは自然から、そして自分自身の体から学ぶことで、協力は不可能ではないことがわかります。人間はこんなにも高度な進化を遂げた自然界の生き物であり、きわめて協力的な細胞の集まりです! 私たちは、貨幣経済の仕組みに、そして西欧科学その他の非常に基本的な仮説に疑問を発し、新しい物語を語り合うことができます。これは希望と勇気を与えてくれる物語であり、決して動きを止めない宇宙の物語です。再利用の方法を話し合うことで、不足という事態を回避することができます。生きている宇宙、意識を有する宇宙、バランスの取れた、決して動きを止めない宇宙という概念に基づき、世界全体の創造の物語を新たに語ることができます。この宇宙は、つねに新しい価値、新しい複雑性を生む性質のもので、消滅したり衰退したりすることは決してありません。これは希望を与えてくれる物語です。」
盛大な拍手の中、エリザベット・サトゥリスさんの基調講演が終りました。


DAGUDAは、1998年に結成されたジャズカルテット。太古、宇宙、自然、共生、和などをテーマにしたオリジナル曲をレパートリーに、北海道小樽のライブハウスで毎月のライブ活動を続けています。ドラムスは小社代表取締役の庄司昭夫。2曲演奏して休憩に入ります。


「ふゆみずたんぼ」とは、冬のあいだも水を張り続けることによって生態系の働きを活発にし、その力を借りて無農薬、無化学肥料で稲を育てる田んぼ、あるいはその農法のことをいいます。 岩渕氏の講演では、この「ふゆみずたんぼ」がもつ生命の場所としての豊かさ、子供たちのための教育的価値、そして携わる農業生産者の方々の想いなどが、スライドを示しながら具体的に語られました。
次に、講演の中で重要または印象的だった部分をご紹介します。

★1「さて、イトミミズの働く田んぼの世界です。イトミミズは私たちと違って頭を地球の中心に向けて糞をします。内蔵を通った糞は酸素がどんどん抜かれて行きますから、この土の表面は酸素のない還元状況になります。 そうすると、還元状況になると、リン酸はリン酸イオン、アンモニアはアンモニアイオンになって稲が吸いやすい形に変わります。もちろん水中にも溶け出して、藻類とか浮き草が豊かになり、結果として水は非常に酸素の豊かなところになります。 一方、土がどんどんつくられてトロトロ層ができていきますので、雑草の種は埋められて抑草効果になるという循環がここに現れるわけです。」
★2「カエルとの付き合い方を私が教えたあとに、子供がアカガエルと仲良くなったというお話です。このまま、お互いに10分間くらい止まったままでした。カエルも止まっている。子供も止まっている。
要するに、たぶん想いを感じることができるんですね。そういうことがやはり子供の頃に生命の豊かさを感じることとそのまま繋がっているんだと思います。」
★3「稲は、稲単独として暮らしているわけではなくて、害虫といわれるものから天敵といわれるものから、あるいは原生生物のようなものから、全部田んぼは育てているんだということを忘れがちです。これを、いわゆる米の価値だけで評価するならば何と淋しい世界になるでしょう。」 30分という短い時間に「ふゆみずたんぼ」の魅力と可能性の豊かさが十分に語られ、また、持続可能な農業の未来に向けての大切さが改めて認識させられました。


続いて「商業界」主幹の倉本氏の講演です。
“商業とは何か”ということを突き詰めると、それは“お客さまが本当に幸せに生きていけるようにして差し上げる仕事”である、というお話からはじまり、そこから、販売者であっても商品の生産から販売にいたるすべてのプロセスに責任をもつ、という、全体論的な世界との結びつきが示唆されました。

商業を通して具体的に示された全体論的なつながりの部分を、抜粋します。

★「何度もいうようですけれども、<何のためにあなたのお店はあるのですか?><何のためにあなたはお店で働いているんですか?>ということに対して、一つじっくりとよく考えてみていただきたいということです。
さらにその一人ひとりのお客さまに満足や幸せ、あるいは本当によかったという、そういう言葉を自ずから発してもらうためには何をしたらいいのだろう、私としてできることは何だろうということを、考えていただきたい。
そして、また質問です。
<ほんのちょっとでもいいですから、まずこれからやってみようということをあなたは持っていますか?>。<いま、これはやったらやれる、あるいは難しいけれどもやらなくちゃならないという自分の行動の方向性というものを、いまお持ちですか?>。
持っていなかったら駄目ですよ。もちろん先のことも必要ですけれども、まず、いま自分が進むべき方向性、それを持っていただきたい。そしてそれによってはじめて自分のやっている仕事の価値や、こんなに素晴らしい商売をやっているんだ、お客さまにこれだけの喜びを与えているんだという自信が生まれてくるのです。さらにその自信を、将来を通して本当によかったという確信にまで高めていただきたい。それができてはじめて、私は<あなたのお店は立派なお店です>、つまり<一人前に自立して仕事をしていらっしゃる。他とは違うはっきりとした個性を持ったお店ですね>ということがいえるわけです。
しかもそれは一人では生み出せないんですよ。なぜならば、あなたの扱う商品は、長いルートを通って産地から輸送され加工され、包装され、あるいはまた最近のことですからブランド化されというふうに、いろいろな段階、形を経て流れてくるからです。
それらに対してどれだけの知識、情報、仕事をあなたはお持ちでしょうか。それらを持ってきちんとやっていますか? やっているとはっきりいえますか? やっているとはっきりいえるような態勢をつくることです。ものすごく大変なことだと思いますけれども、でもそれをやらなければいけません。
今日はこの辺りで終わりにしたいと思いますけれども、本当は<じゃあどうしたらいいの?>という疑問からはじめて具体的な問題が生まれてくるわけです。やはりまず最初に必要なのは、技術の問題ではなくて頭の切り替えなんです。考えを変えてください。違う人間になってください。自分が変わらなければ何も変わりません。一つそういうことを認識していただきたいな、と思っています。」


15分の休憩のあと、トークセッションがはじまりました。ステージ上にエリザベット・サトゥリス氏、岩渕成紀氏、倉本初夫氏、庄司昭夫が揃っています。
進行役の労をかってくださったのは岩渕成紀氏。うちとけた雰囲気のなかで、これまでの講演を踏まえた興味深い会話が繰り広げられました。

ここでは、「進化」をお話の中心に、それぞれのご発言の一分を抜粋、再構成してご紹介します。

●サトゥリス氏:西洋の世界観としては、宇宙とは無生命の物体でつねに退化しているという物語と、生物学的な物語、つまり宇宙は退化しており、したがって生存競争によって取れるだけ取っておくのだ、という物語があります。宇宙には何の意味も目的もなく、したがって取れるものは取っておこうという考え方は、当然ながら、消費社会の構築を正当化するものです。私たちはこの退化する宇宙に生きる慰みとして物を確保しておかなければ、と信じています。そのために私たちは、次々といろいろな物を確保しようとして、いわゆる“過多”状態に陥ります。私はかつて物が溢れかえった大きな家に住んでいましたが、2人の子供を育て上げたあと、それをすべて処分して思索にふけりたいと思いました。それで私はアメリカからギリシャのある島に移住し、森の中の簡素な家に住みはじめたのです。そうすることで平穏な静けさを確保しました。つまり休みなく動き回り、物を片づけたり動かしたりしてきちんと整理しておく必要がなくなったのです。何事にも束縛されない状態に身を置くことで、思索したり解明したりすることが可能になりました。
私たちの信じている物語を変え、宇宙を生きているもの、畏敬の念を起こさせる巨大なものと捉え直し、人間を宇宙の構成要素、すなわち巨大な意識の中に住む思考能力を有する独特な生きものとみなすとき、自らを律する方法を考えるため、自然に目を向けることができます。そしてこのコンテクストにおいて、多くの種が競争から協力に転じたこと、敵を殺すよりも食物を分け与えるほうがはるかに安上がりだということに気付きます。
●岩渕氏:ネオダーウィニズムというのは、やはり進化論として、競争の中で淘汰されつつ最終的にゴールに向かうんだという話です。
それが企業論理に上手く使われてしまって、いまの破綻社会を生んでしまう、あるいは大量消費のウェイスト社会が成立してしまったひとつの原因になったんじゃないか、と思われるわけです。サトゥリスさんのような、いわゆる共生社会がゴールなんだというアイデアで企業の活動が進められていったらまた別の社会になると思うんです。
そこで、『アースダンス』の中でも今日の講演の中でも出てきました“進化において繰り返されるパターン”という話を私たちは身に付けていかなければならないと思うのです。
●倉本氏:実は『アースダンス』の中の言葉なんですけど、「競争によって非常に無駄なエネルギーを消耗するよりも、協力的な相乗効果へ転じることを行動の規範にしたらいいんじゃないか、すべきである」と書いてあるんですね。
ということは、よく読んでみると、戦って乗っ取るというんじゃないんですよ。ここでいっていることは「協力的な相乗効果に転じる」といっているんです。戦いをするのではなくて戦いを転じる、という意味は、戦いを止めてということとはまた違うわけです。戦いがいつの間にか相乗効果になる、あるいは協力体制に変わっていく。ですから決して競争がまったくないほうがいいとか、あるいは競争は悪いものであるというふうに決め付けているのではなくて、競争そのものがある意味ではよりよくするための協力体制とイコールであるというものの考え方を本物にしていかなくちゃいけないというわけです。
いい方がちょっと難しいので分かりにくいかもしれませんけど、そういうふうな考え方が非常に大事じゃないかな、ということがひとつありますよね。
進化というものはそういうふうに理解しないと、ただ単に優勢なものが勝って他のものがすべて滅びていくという、それが進化の原則であるという、そんな古いものの考え方を私たちはなかなか捨てられないんだけれども、捨てなくちゃいけないということだと思うんですね。

●庄司:「進化」ということに関しては、ビジネス界などでは、よく進化と成長、発展をごっちゃにしているような気がします。やはり進化が必要なときというのは、そのまま行ったら種が絶滅するかもしれないという前提があるのだと思うんです。すると成長、発展のためというのは、ただの変化ということになります。
いまはそうじゃなくて成長、発展よりも、21世紀もこのままでは駄目になる、地球から人間から危機状態になるという認識、それでここを乗り越えるために進化が必要なわけですね。そのときに条件としては、やはり多様性があるかどうかで進化を乗り越えられる素質があるかどうかということに結びつく。
ビジネスのほうで「進化」というと、…「戦略」という言葉がありますね、一般的には成長、発展のために意図的にある世界を築いて皆がそれに追随せざるを得なくなることをもって「戦略」といいます。これと同じような意味合いで「進化」という言葉を使っているような気がします。
しかし「進化」の本当の意味合いというのはまったく違います。自分でこうなりたいということばかりではなくて、社会、環境がそうせざるを得ない状況になったときにどうしていくか、というような意味合いです。それは具体的には、自分はこうなりたい、というのではなくて、社会、環境の状況の中でちゃんと種の保存を図っていくためにどうするか、というようなことです。ビジネス界などでは、こういった勘違いが結構見られます。
時間的な制約のためにそれぞれの会話が実際にスイングし合うというところまでは行きませんでしたが、語られた多くの部分が重なり合い、また共鳴しあっていることが実感できました。

エリザベット・サトゥリスさん、岩渕さん、倉本さん、たいへんありがとうございました。 当日、会場にお越しいただいた皆さんへの心からの感謝を送りつつ、これでこのレポートを終了させていただきます。